『事例問題から考える憲法』第3問(憲法14条1項、平等原則)の答案を書き直してみました。(1回目)
【はじめに】
今回は答案の書き直し記事です。
上記の記事で答案を上げたところ、今年司法試験に合格した友人がこのブログを見ていてくれて、今まで上げた5通を詳細に添削してくれました。サプライズというか全く予想してなかったので、本当に嬉しかったです。
内容的には結構ボコボコにされましたが(笑)、めちゃくちゃ勉強になったので早速書き直してみようと思います。今回はその4通目です。
その友人には本当に感謝しかない。ありがとうございます。
ちなみに上記記事で書いた答案はこちらです。
【書き直し答案】
1、助言の趣旨
Xは、YのXに対するY大学原子炉工学研究所(以下、本件研究所)への入学不許可決定(以下、本件処分)によって生じる区別は平等原則(憲法(以下略)14条1項)に反するので違憲であると主張すべきである。
2、本件処分における憲法上の問題
⑴Xは外国人ではあるが、平等権の性質に照らし、少なくとも他の外国人とは平等に扱われるべきである。
⑵本件処分は主にXがI国籍人であることを理由にされたものである。この処分によって、他の外国人であれば本件研究所に入学できたにもかかわらず、Xは入学できないという区別(以下、本件区別)が生じている。
⑶よって、本件区別が平等原則に反しないか審査されるべきである。
3、審査基準
⑴14条1項は「法の下に平等」と定めており、その趣旨は一切の差別を許さない絶対的平等を求めることではなく、事柄の性質に応じた合理的な根拠に基づかない差別を禁止することである。よって、ある区別が平等原則に反するかどうかは、当該区別に事柄の性質に応じた合理的根拠があるかで審査すべきである。*1
⑵そこで、本件区別に伴う事柄の性質、具体的には①どのような法的地位について②どのような理由で区別をしているかを検討する。
ア、①について
(ア)本件区別は、本件研究所で学ぶ身分という法的地位についての区別である。たしかに、本件研究所で学ぶ身分とは一大学研究所で学ぶ身分にすぎず、Xが他の研究所の学生となれるのであれば、さほど重要な法的地位とは言えないように思える。しかし、本件処分は文部科学省の大学等に対するI国人へのI国の核活動に寄与するであろう分野の専門教育または訓練を行わない旨の依頼に従って決定されたものである。この依頼はY大学だけでなく日本全国の大学等に対してなされていると考えられるのだから、仮にY大学による本件処分が許されるのであれば(*2)、Xは同様の理由で日本の大学等全てに入学できないことになる。つまり本件区別は実質的には、日本の大学等でI国核活動に寄与する可能性のある分野を学ぶ身分という法的地位(以下、本件法的地位)についての区別であるといえる。
(イ)Xが本件研究所への入学を望んだことからわかる通り、「発癌の原理」という研究(以下、本件研究)には高い専門性や実験研究を要するものと考えられ、大学等以外でもオンラインによる海外の大学等教育課程でも十分に学ぶことができない分野であると考えられる。つまり、7年前に日本に入国し定住しているXにとって本件法的地位とは、本件研究をする自由と密接に関連する法的地位であるということができる。
(ウ)そこでXが本件研究をする自由について考えると、かかる自由は「学問の自由」(23条)として保障される。また、研究の発表する自由は21条1項で保障される「表現の自由」の一部をなし、「学問の自由」としても特に保障される。そして本件研究の自由は真理を探求し社会を発展させるものであり、これを発表する自由も学問的知見を国民が知ることで自らの価値観を向上させるものであるから、これらの自由は憲法上とりわけ尊重されるべき重要な権利である。そして、その権利は性質上、外国人のXであっても保障されるべきものである。(*3,*4)
(エ)よって、本件区別は憲法上とりわけ尊重されるべき重要な権利に密接に関連する重要な法的地位についての区別である。
イ、②について
(ア)そして、本件区別はXがI国人であることを理由にした区別である。I国人という属性はXが生まれ持った属性である。そして、たしかに法的に国籍を変更すること自体は可能ではあるが、例えば日本国籍の取得には厳しい要件が課されているし、他の国籍であっても通常は変更するには困難を伴う。*5
(イ)よって、本件区別は本人の意思や努力では変えることが困難な理由によってされた区別である。
ウ、以上の検討によれば、本件区別は重大な法的地位について本人の意思や努力では変えることが困難な理由でされた区別といえる。よって、本件区別に合理的根拠があるかは慎重に検討する必要がある。具体的には、区別目的が重要であり、区別内容が区別目的に観念的に適合するだけでなく実質的に必要であったと言えないかぎり、本件区別は合理的根拠がない区別として平等原則に反すると考えるべきである。*6
4、個別具体的検討
⑴区別目的
本件区別の目的はI国への技術移転防止である。I国に核開発疑惑があり国際政治上の問題となっている点、そして安保理決議がI国への技術移転防止を義務付けている点を考えると、日本のみならず国際社会全体にとって、重要な目的であるといえる。
⑵区別内容と区別目的の関連性
(ア)本件区別の内容はI国人を本件研究所に入学させないことである。I国に核開発疑惑があり、本件研究所研究生は核技術に関わる機材や情報にアクセスする可能性があることを考えれば、I国人を本件研究所に入学させないことは前記区別目的に観念的には適合するように思える。
(イ)しかし、本件区別の内容をより詳しく検討すると、それは難民認定を受けたI国人Xを入学させないことであったといえる。難民とは本国から政治的迫害を受けている者であり、事実Xはその本国であるI国から迫害を受けていた。このことは難民認定に厳格な要件を課す日本の法務大臣が認めたものであり、Yが本件処分をするにあたっての前提とすべき事実であった。YはXの履歴書に空白があったことを考慮したとするが、政治的迫害を受けた難民は生活が不安定とならざるを得ず、履歴書に空白が生じることはやむを得ないというべきである。Xが難民であることを前提の事実とすると、Xが自らを政治的に迫害したI国に核技術を移転するとは考え難いところであり、本件区別の内容は区別目的に実質的に必要であったとは言えない。
⑶よって、本件区別は合理的根拠がない区別として平等原則に反する。
5、結論
よって、本件処分によって生じる本件区別は14条1項に反して違憲である。
以上*7
【書き直しのポイント】
今回も結構悩みました。
ただ、平等原則は結構勘違いしてたところがあって、その辺を修正できたのはよかったな、と。
添削してくれた本人の許可ももらったので今回も添削コメントを引用しつつ、以下、書き直しのポイントをまとめます。
*1