『事例問題から考える憲法』第26問(89条前段、政教分離原則)の答案を書き直してみました。
【はじめに】
今回は答案の書き直し記事です。
上記の記事で答案を上げたところ、今年司法試験に合格した友人がこのブログを見ていてくれて、今まで上げた5通を詳細に添削してくれました。サプライズというか全く予想してなかったので、本当に嬉しかったです。
内容的には結構ボコボコにされましたが(笑)、めちゃくちゃ勉強になったので早速書き直してみようと思います。今回はその5通目です。
その友人には本当に感謝しかない。ありがとうございます。
ちなみに上記記事で書いた答案はこちらです。
【書き直し答案】
1、助言の趣旨
被災自治体が申請した復興交付金から寺社再建に対して支出する行為(以下、本件行為)は、政教分離原則(憲法(以下略)89条前段、20条1項後段)に反せず、合憲である。*1
2、本件行為の憲法上の問題
⑴「宗教上の組織若しくは団体」(89条前段)とは特定の宗教の信仰、礼拝又は普及等の宗教的活動を行うことを本来の目的とする組織ないし団体を言うところ、寺社は仏教・神道という特定の宗教のかかる宗教的活動を行うことを本来の目的とする組織ないし団体であると認められる。*2
⑵よって、89条前段に照らして、寺社に復興交付金という「公金」を「支出」する本件行為はその憲法適合性が審査されるべきである。*3
3、審査基準
⑴そもそも政教分離原則の理念は、公権力の宗教的中立を保ち少数者の信教の自由を制度的に保障することにある。そして、89条前段の趣旨はこの理念を財政面においても徹底することにある。しかし、公権力と宗教の関わり合いは多様であるから、それら全てを禁止することは現実的でなく、むしろ宗教という属性による不当な不利益を負わすことになりかねない。
⑵そこで、本件行為のような公権力による宗教団体等に対する公金支出行為が89条前段に適合するかは、日本の社会的・文化的諸条件に照らして、当該行為についての公権力と宗教の関わり合いの程度が、前記政教分離原則の制度としての根本目的との関係で相当といえるかで判断すべきである。相当性については、当該行為の目的が宗教的意義を持つか、その効果が特定の宗教を援助・促進・助長又は圧迫・干渉するものといえるかを中心に総合考慮すべきである。*4
4、個別具体的検討
⑴本件行為は復興支援金で寺社を再建するものである。その目的を検討する。
ア、たしかに本件行為が、「土地を守っている神様とのつきあいとか、あるいは祖先とのつながりをどのように維持していくかということが、地域コミュニティの存続にとって何よりも重要なこと」であり、このために「精神的拠りどころとしての神や仏の座」の再建することのみを意味するならば、本件行為の目的が宗教的意義を持つことは否定しがたいように思える。
もっとも、一般に寺社とは地域の集会所や世俗的なイベントの開催地としての社会的役割を担うことも多い。そして、寺社には文化財としての指定を受け地域の観光資源として経済的な価値を有するものも含まれる。そして、災害時には被災者の一時避難場所となることもあり得る。このように寺社は地域において宗教的役割だけではなく多様な役割を担うものであって、一般人の視点から考えると、本件行為の目的はこれらの役割を担う公共的性格を持つ施設の再建にあると考えるべきである。*5
イ、よって、本件行為の目的が宗教的意義を持つと認めることはできない。
⑵本件行為の効果を検討する。
ア、本件行為で問題となる復興交付金制度は被災した広く一般の者に復興資金を交付するための制度と認められ、復興交付金は寺社だけでなく被災した者に広く交付されると考えられる。つまり、復興交付金は特定の宗教であるかどうかではなく、被災したかどうかで交付されるか否かが決められる。この点からすると、復興交付金が被災した寺社に交付されたとしても、仏教・神道という特定の宗教だから交付された(またはその他の宗教であるから交付されなかった)と一般人が考えるとは言い難い。*6
イ、よって、本件行為の効果が仏教・神道という特定の宗教を援助・促進・助長または他の宗教を圧迫・干渉するものとは言えない。
⑶よって、日本の社会的・文化的諸条件に照らして、本件行為についての被災自治体と寺社との関わり合いの程度は相当なものといえるから、本件行為は89条前段に反しない。
5、結論
よって、本件行為は政教分離原則に反せず合憲である。
以上
【書き直しのポイント】
今回は比較的スムーズに書き直せました。今までの書き直しは自由権の性質や平等原則自体の理解に難があったのですが、今回はそういう部分が比較的少なかったからかな?などと思っています。添削コメントも構成や書き方に関するものが主でした。
添削してくれた本人の許可ももらったので今回も添削コメントを引用しつつ、以下、書き直しのポイントをまとめます。
*1
『89条「前段」まで指摘しましょう。また、20条1項後段の指摘も不可欠だと思います。』
もはや、この書き直し記事の恒例となっていて恥ずかしい限りですが。ちゃんと条文に紐づけて覚えます…。
*2
『「宗教上の組織若しくは団体」については、判例(百選Ⅰ46番など)上定義があるので、それを踏まえた論述をすると良いと思います。玉串料訴訟の判決文だと、たしかに「これに当たるのは明らかである」といった判示をしていますが、受験の答案としては不適切なので、お勧めしません。』
パクった判例までバレてました。笑
この書き直し期間で思ったのですが、「判例を重視すること」と「判例をそのままパクること」は似て非なるものなのだと思いました。答案としての説得力を増すためには、適宜修正・補充をしていく必要があるなぁ…などと。
*3
『宗教上の組織若しくは団体に該当する団体への公金支出であることが認定できれば、89条前段、20条1項後段の問題が生じることの論述としては十分だと思います』
ここはやはり書き方の問題として、削るべきところは削るべきですものね。その辺のバランスも身につけていきたいです。
*4
上位規範までの流れは『目的効果基準でも空知太の基準でも同じです。問題は、「相当とされる限度を超えた場合」という上位規範に対する下位規範として、上記のいずれの基準を取るのかという点にあります。そのため、政教分離原則については、下位規範まで書くのが必須と思います。ここは書かないと伝わりようもないです。』
なるほど、と思いました。政教分離の一般論として上位規範はあるが、その上でどの下位規範を使っていくかを採用するかを示して、あてはめていく必要があるのですね。この辺はもう少し繊細に扱っていこうと思います。
*5
『あてはめで使うならわかりますが、基準定立の前に書くものではないと思います。』
元の答案では、政教分離原則を緩める必要性として書いたつもりでしたが、やはりストレートに規範を出して、あてはめたほうが良さそうですね。気をつけていきたいと思います。
*6
『あてはめについては…一般人の評価が特に重要な要素だそうです。この要素にも着目するとよいと思います。』
そういえばアガルートの講義でもそういう指導があったと思いますが、すっかり忘れてましたね…そんなわけで、そういう視点からのあてはめを心がけてみました。