『事例問題から考える憲法』第6問(未成年者の人権)の答案を書き直してみました。(1回目)
【はじめに】
今回は答案の書き直し記事です。
上記の記事で答案を上げたところ、今年司法試験に合格した友人がこのブログを見ていてくれて、今まで上げた5通を詳細に添削してくれました。サプライズというか全く予想してなかったので、本当に嬉しかったです。
内容的には結構ボコボコにされましたが(笑)、めちゃくちゃ勉強になったので早速書き直してみようと思います。今回はその1通目です。
その友人には本当に感謝しかない。ありがとうございます。
ちなみに上記記事で書いた答案はこちらです。
【書き直し答案】
1、助言の趣旨
Xは、YのXに対する無期停学処分(以下、本件処分)は、Xの「表現の自由」(憲法(以下省略)21条1項)を侵害するものであるから違憲であると主張すべきである。
2、本件処分の憲法上の問題
⑴本件処分は、Xの校内における原発再稼働反対のビラ配布、運動の賛同を求める署名を集めたこと(以下、本件活動)に対する懲戒処分である。本件活動はXの政治的意見を表明するものであり民主主義の根幹をなすものであるから、本件活動をする自由は「表現の自由」として保障される。*1
⑵そして、本件処分は本件活動に対する懲戒処分としてなされている。無期停学という処分の重さを考えると、Xは学内における本件活動をやめざるをえず、その自由は制約されている。*1
⑶Yとしては、Xは成熟した判断能力を有しない未成年であるから本人保護のために憲法上の権利の制約もやむを得ないと反論するだろう。このようなパターナリズムによる制約は許されるか。*2
ア、パターナリズムとは、独立した能力のない子に対して親が干渉して面倒を見るようなやり方で、公権力が私人の行動に干渉することをいう。しかし、かかる制約は個人の自己決定権(憲法13条後段)を年齢のみをもって一律に制約するものであるから、本人保護のためであっても極めて例外的にしか許されるべきではない。具体的には、未成年者の人格的自律に回復不可能な害をもたらす場合における必要最小限の制約に限り、このような制約は許されると考える。*3
イ、たしかに、本件活動のように政治的意見の表明をする自由を行使するにあたっては他者との論争を引き起こす可能性があり、その過程でXに害がないとは言い切れない。しかし、Xはすでに18歳であり、未成年とはいえ成人とほぼ変わらない成熟が期待できる。また、法が政治的意思表明の一つである投票をする権利を18歳に認めているのは、政治的意見の表明に関わる弊害に18歳という年齢は耐えうると評価しているものとも考えられる。よって、本件活動のような政治的意見の表明をする自由の行使が、Xの人格的自律に回復不可能な害をもたらすと認めるのは困難であり、Xによる本件活動へのパターナリズムによる制約を許す余地はない。
ウ、よって、Yの反論は認められない。
⑷よって、Yによる本件処分はXの憲法上の権利を制約していると言えるので、その憲法適合性を審査すべきである。
3、審査基準
⑴本件処分によって制約される権利は高校内において原発再稼働反対という政治的意見を表明する権利である。かかる権利の重要性を検討する。*4
ア、原発再稼働の是非とは国民全体の関心が高い事項であり、Xの本件活動をする自由は公共的事項に関する表現の自由と言える。そもそも主権が国民に属する民主制国家とは、国民がおよそ一切の主義主張を表明し、またその情報を相互に受領するができ、その中から自由に自己が正当と信じるものを採用することで多数意見が形成され、かかる過程を通じて国政が決定されることをその存立の基礎とする。よって、とりわけ公共的事項に関する表現の自由は特に重要な憲法上の権利として尊重されなければならない。*5
イ、この点についてYは、公共的事項に関する表現の自由の重要性を認めつつも、高校は思想を自由に表現する場ではなく、高校内で表現する自由までも特に重要な憲法上の権利として尊重すべきではないと反論するだろう。
(ア)たしかに、学校とは学生の学習達成を主たる目的とした教育機関であり、思想の自由市場としての機能が期待される一般社会とは完全に同一視することはできない。しかし、本件で問題となっているのは高校である。高校の性質を考えてみると、在籍生徒は全て在学中に政治的・公共的価値判断を要する投票の権利を得るのであり、高校とはそのような属性を共有する国民が集団生活をする場所であると言える。このような高校という空間の性質に照らせば、少なくとも公共的事項を表現する自由との関係では、一般社会と等しく思想の自由市場として機能が期待される。
(イ)また、前記のような属性を共有する同世代と意見の交換する過程で、個人は自らの考えを修正・発展することができ、この過程はXのみならず他の生徒の人格的自律の成長に資するものである。そして、既に、または近い将来に投票権を持つ国民である高校生がこのような意見交換の過程を経ることが前記民主制の過程に資するものであることは明らかである。
ウ、よって、Yの反論は認められず、学校という場の性質を考えてもなお、Xが高校内で政治的意見を表明する権利は特に重要な権利な憲法上として尊重されるべきである。
⑵Yによる本件処分の制約態様を検討する。*4
ア、まず、本件処分が表現内容規制にあたるかを検討する。*4
(ア)Xの活動をめぐって他の生徒との小競り合いが生じたことを受けて、Yは本件処分に先立って「生徒は校内において積極的な政治活動をしてはならない」という生徒心得を示して、Xに校内での政治活動を控えるように指導している。そして、これに反発したXが本件活動で配布していたビラに学校非難の激しい言葉を載せたことが本件処分の直接のきっかけとなっている。
このような経過を見ると本件処分は、表現内容そのものではなく学校という場所、または政治的意見の過激な表明方法を規制した内容中立規制に過ぎないように思える。
(イ)しかし、前記生徒心得は概括的とはいえ政治活動という表現内容に踏み込んだものである。そして、これに基づく指導の内容は、他の生徒と小競り合いをしないような表現方法に関する指導ではなく、あくまで政治活動を控えることのみであったのだから、本件指導に関してはXの表現内容に着目したものと言わざるを得ない。
また、より詳細に本件指導に至る経過を見ると、前記指導のそもそもの発端の一つはXの原発再稼働反対運動に批判的な他の生徒の保護者からの抗議であった。そうすると、仮にXが他の意見を表明していれば指導がされなかった可能性があり、本件処分に至る経過にXの原発再稼働反対という個別的な見解が無関係だったとは言えない。
(ウ)よって、本件処分の表現内容規制の性格は強い。このような表現内容規制は前記民主制の過程から特定の表現内容を排除する可能性があり、制約態様として重大なものである。*6
イ、また、本件処分の内容は無期停学である。有期停学と違い、無期停学は期限以外に復学条件があるものと考えられる。本件処分に至る指導内容などを見れば、その復学条件がXの校内における本件活動の放棄であることは容易に推認できる。Xの本件活動の動機はその両親の影響であり真摯なものであったと言えるが、本件処分はXのこの真摯な政治活動か学校生活かの深刻な選択を強いるものだったと言える。この点においても、本件処分の制約態様は重大であったと言える。*7
⑶もっとも、現場を把握する学校側に学内処分と内容を決定する裁量を認めなければ、学校運営は成り立たない。しかし、無期停学が退学に次ぐ重い処分であり、復学されなければ原級留置とならざるを得ない点を考えると、学校は無期停学処分をするにあたって慎重に判断すべきであり、その裁量の幅は狭く考えるべきである。*8
⑷よって、本件処分の憲法適合性を審査するにあたっては厳格な合理性の基準が妥当する。具体的には当該処分の理由が重要であり、その理由を達成することが当該処分以外の代替措置では不可能な場合にのみ、当該処分は合憲である。
4、個別具体的検討
⑴本件処分理由は、Yの学則にあるように学校の秩序を守ることであったと考えられる。前記のように、学校は学生の教育を主たる目的とする機関であるから、他の学生の安全や学習環境のためには学内の秩序は不可欠な前提であって、その処分理由は重要である。
⑵もっとも、本件処分は無期停学処分であり、無期限に学校からXを排除するという内容である。しかし、Xの本件活動が他の生徒に危害を加える態様であったとは言えないし、学習環境を阻害した事実もない。たしかに小競り合いはあったものの、それはXのみに帰責できるものではない。このような事情に照らせば、Yとしては、Xの活動を契機に公共的事項である原発再稼働の是非について、生徒間でトラブルにならないような適切な議論の場を設定するなど、学内の秩序という理由のために他の代替措置を講じることは可能であった。
【書き直しのポイント】
元の答案と比べてどうでしょうか。自画自賛すると(そして、そもそも私の手柄ではなく友人の添削が的確だからなのですが)かなり締まったのではないでしょうか。添削してくれた友人に見せたら「だいぶ良くなったと思いますよ」と言われて、一安心です。
本人の許可ももらったので添削コメントを引用しつつ、以下、書き直しのポイントをまとめます。
*1